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福岡家庭裁判所 昭和36年(家)1682号 審判 1961年10月05日

申立人 小森伸昭 外一名

主文

本件各申立を却下する。

理由

申立の要旨

申立人小森伸昭の名は、祖父母が命名したもので「のぶあき」と読むのであるが、「伸」を「のび」とか「しん」と読み「のびあき」「しんしよう」と呼ぶ人が多いので、「伸」を「信」にかえ、その名を「信昭」と変更したい。また申立人小森直毅の名は「毅」の字が難読であるため「なおき」と読む人が少いばかりか、申立人が小学校に入学した場合書くのに困るので「毅」を「紀」にかえ、その名を「直紀」に変更したい。というのである。

当裁判所の判断

申立人小森伸昭の「伸」の字は「のびる」とも読まれるけれども、人名として「伸昭」と書いた場合に「のびあき」と読むのは稀であつて、普通の常識を備えたものは、「のぶあき」と読むものと推測され、また「伸昭」「信昭」はいずれも「しんしよう」と読むことができるので、この点では「伸」を「信」と変更しても同じことである。

次に申立人小森直毅の「毅」は人名によく用いられる字であつて、「直毅」は「なおき」と読まれるのが普通であつて、その他の読み方をするのは、極稀であると思料される。また「毅」の字がさ程書き難い字とも思われない。更に申立人等はまだ小学校にも行かない年少の子供であつて「信昭」「直紀」の字を使用してはおらず、その名の字を変更しなければ生活上で困るような事情があるとも考えられない。申立人等の母小森安子を審問した結果によれば、姓名判断によると申立人らは三十五才で死ぬということであるので、親として気持が悪く、また申立人らに幸福な人生を送らせたいので、その名を変更したいと思い付いたことが本件申立の主な理由であることが窺われる。

親として、姓名判断の結果、子供の名が悪いのでその子が幸福にならないといわれた場合、子供の名を変更したいと思う親の心情は察せられないことはないけれども、巷間行われているいわゆる性名判断によつて人の将来の運命を予知することができること、名を変更することによつてそのものの運命が好転すること、等を速断することはできない。申立人らはまだ世俗のことは何も知らない無邪気な幼児であつて、名の変更について何も判らないものであり、名を変更することは、申立人らの両親の気休めといつても過言ではない。子供の幸福を願うのであれば、万人が未だ納得するに至つていないような姓名判断に頼るよりも、信頼できる医師の指導の下に、子供の健康管理に万全の注意を払い、もつて心身ともに健全な子供に育てあげるべきであつて、かかる措置に出ることこそ子供の真の幸福をもたらすゆえんであると思料する。本件については、戸籍法第一〇七条第二項にいわゆる名を変更するについての正当な事由がないものといわねばならないので、本件各申立を失当として却下すべきものとし主文のとおり審判する。

(家事審判官 藤田哲夫)

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